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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)187号 判決 1998年9月10日

大阪府松原市丹南1丁目343番1号

原告

富田工業株式会社

代表者代表取締役

富田治

訴訟代理人弁護士

中島敏

訴訟代理人弁理土

井沢洵

静岡県浜松市吉野東町275番地

被告

有限会社大和製作所

代表者代表取締役

匂坂英男

静岡県引佐郡細江町気賀3329番地

被告

白柳伊佐雄

主文

1  特許庁が平成1年審判第21768号事件について平成6年6月21日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告らは、発明の名称を「折畳みふとん干し具」とする発明についての特許権者である(出願人は、昭和51年5月14日に実用新案登録出願(昭和51年実用新案登録願第62161号。以下「原々出願」という。)をし、昭和54年3月2日に特許出願(昭和54年特許願第24735号。以下「原出願」という。)に変更するとともに、その一部を新たな特許出願(昭和54年特許願第24736号。以下「本件出願」という。)とし、昭和55年9月25日、昭和56年2月6日及び昭和59年10月3日にそれぞれ手続補正をし、昭和60年2月9日の出願公告(特公昭60-5320号)を経て、昭和60年10月31日に特許第1287636号として設定登録を受けたものである。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)ところ、原告は、平成元年12月28日、被告らを被請求人として本件特許の無効の審判を請求した。特許庁は、上記審判の請求について平成1年審判第21768号事件として審理した結果、平成6年6月21日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年7月11日、その謄本を原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲

本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲1の項の記載は、次のとおりである。

「少なくとも2本の管材を上連結金具と下連結金具とにより上下において互いに連結して主柱を構成し、上連結金具の上面及び下連結金具の下面に比較的短小の上下一対の心金を突設するものにおいて、前記心金を前記少なくとも2本の管材と同軸上に配された上下一対の主心金と、それらの間に付加的に設けられた少なくとも上下一対の補助心金とで構成し、この主心金と補助心金とに開口部を有する略四辺形の管材製枠体の開口部を嵌め込んで回動自在に係合させてなる折畳みふとん干し具。」

3  審決の理由

審決の理由は、別添審決書写しの理由欄記載のとおりであって、変更出願(原出願)及び分割出願(本件出願)はそれぞれ適法にされたものであるから、本件出願は原々出願の出願日である昭和51年5月14日にされたものとみなされるところ、本件出願に係る本件発明は、実願昭46-121975号(実開昭48-76564号)のマイクロフィルム(引用例1)、実開昭51-11230号公報(引用例2)、実願昭49-132246号(実開昭51-57835号)のマイクロフィルム(引用例3)にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、本件特許を無効とすることはできないとした。

4  審決を取り消すべき事由

審決は、以下のとおり、本件発明が原々出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「原々明細書」、「原々図面」という。)に開示されていると誤認した結果、前記3の審決の理由のとおり本件特許を無効とすることはできない旨誤った判断をしたものであって、審決は違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  本件発明において、「略四辺形の管材製枠体」は、「必ずしも1本の材料を屈曲して形成する必要はなく、・・・複数本の素管を連結して全体として略四辺形に構成してもよい」ことが本件明細書に明記され(甲第2号証2頁3欄28行ないし31行)、特許請求の範囲6の項において「数本の管材を組み合わせて構成した折り畳みふとん干し具」が記載されているから、本件発明の「略四辺形の管材製枠体」が1本の管材を屈曲して、又は数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体を意味することは明らかである。

(2)  次に、本件発明における心金は、特許請求の範囲1の項に記載のとおり、「比較的短小の上下一対の心金」でなければならず、かつ、略四辺形の管材製枠体の開口部を嵌め込んで「回動自在に係合させてなる」ことを要件としている。上記「比較的短小」の意義は、本件明細書に「管材製枠体5は短い心金に嵌め込んであるだけなので摩擦が少なく操作が円滑に行える」(甲第2号証2頁4欄23行ないし24行)と記載され、また、「心金が水平部6、7と端部9との間の屈曲部に干渉することがなく、枠体5の回動が円滑に行い得る」(同欄32行ないし34行)と記載されているように、本件発明における心金は、管材製枠体との摩擦を減少させ、その屈曲部との干渉をなくし、管材製枠体の開口を「回動自在に係合させる」ものである。

(3)  ところで、本件発明における数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体に上記心金を適用した構成は、原出願時に、発明の要旨を変更して新たに追加加入されたものであって、本件発明の原々出願には全く存在しなかったものである。

すなわち、原々出願に係る考案の構成は、従来の折畳みふとん干し具として、原々図面第1図(別紙図面参照)に記載されている「天パイプ(1)と地パイプ(2)の両端を直角に曲げ(主)柱パイプ(3)と副柱パイプ(4)を各々のパイプの内径に嵌合し、曲げRで停止させて一枚の四辺形を構成し、これを複数個作って柱部を蝶番とする折りたたみ式ふとん干し具」であって、「曲げR部の摩擦で形成される構造」を有するものであった。

したがって、原々出願に係る発明には、本件発明の特許請求の範囲の「上連結金具の上面及び下連結金具の下面に比較的短小の上下一対の心金を突設するものにおいて」及び「この主心金と補助心金とに開口部を有する略四辺形の管材製枠体の開口部を嵌め込んで回動自在に係合させてなる折畳みふとん干し具」にいう心金は全く開示されていなかった。原々出願の主柱パイプ及び副柱パイプは、いずれも前記したように、「曲げR部」、すなわち、水平部と端部との間の屈曲部まで突出させ、曲げで停止させるものであるから、これ以上伸長できない程度まで最大限主柱パイプ及び副柱パイプを伸長させる構成を採用するものであって、これが本件発明の構成における「比較的短小の心金」に該当せず、これと異なるものであることは明らかである。

また、原々出願の従来例に記載の数本の管材を組合せて構成した管材製枠体からなる折畳みふとん干し具における主柱および副柱は、上記のように屈曲部まで伸長し、曲げR部の摩擦によって嵌合するものであったから、本件発明の構成に規定された、摩擦を最小にし、管材製枠体の開口部を回動自在に係合することによって操作を円滑にする心金ではなかった。

本件発明における数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体に上記認定の心金を適用した構成は、原出願時に、発明の要旨を変更して新たに追加加入されたものであって、本件発明の原々出願には全く存在しなかったものである。

したがって、本件発明の上記構成は、「原々明細書」、「原々図面」に開示されておらず、分割出願の要件を具備していないのであるから、本件出願の出願日は原々出願の出願日に遡及せず、かつ、原々出願に係る発明が本件出願の出願日において公知となっていたから、本件出願は、特許法29条1項3号、123条1項1号の規定により無効となるものである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告らの反論

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。

同4は争う。本件審決の認定判断はすべて正当であって、本件審決には原告主張の違法はない。

2  原告主張の取消事由について

1本の管材を屈曲させて略四辺形の管材製枠体を作ることは、原々出願の実用新案登録請求の範囲に記載されており、また、数本の管材を組み合わせて作られることは、原々明細書中、公知ではないが従来例として説明中に明瞭に記載されている。

原告は、心金が比較的短小の上下一対であると主張するが、原告は、従来例として説明された原々図面第1図のふとん干し具が柱パイプと曲げR部とを干渉させていることを捉え、同第2図以下で示される当初の実施例についても、それと同列に扱っているものである。しかし、原々明細書2頁19行目以下と、同第2図、第3図によれば、<1>開口(10)の寸法1を・・・段置間隔mよりも小さく設けること、<2>開口(10)はm+n以上開くこと、<3>上記第3図、第4図において、開口(10)は連結金具に当接していること、などの構成が明瞭に記載されている(別紙図面参照)。

また、原々明細書3頁6行及び7行に、「・・・蝶番作用が円滑である。」との作用の説明もしている。この記載は、原告の主張の根拠となっている「柱パイプと曲げR部とを干渉すること」との対比となっていることも文章の構成上明らかである。

したがって、上記原々明細書及び原々図面に基づき、当業者であれば、ふとん干し具に使用される管の直径や長さ、あるいは回転部分のクリアランスなどを考慮して、原々出願の明細書に、心金が比較的短小の上下一対のふとん干し具が記載されていることが容易に理解されるから、本件発明の出願日は当然に原々出願の出願日に遡及するものである。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本件発明の特許請求の範囲、審決の理由)は当事者間に争いがない。

第2  原告の主張する取消事由について判断する。

1  「略四辺形の管材製枠体」について

本件発明にいう「略四辺形の管材製枠体」の構成について検討するに、特許請求の範囲6の項に「第1項の記載において、前記略四辺形の管材製枠体は、数本の管材を組み合わせて構成した折畳みふとん干し具」という記載があること、本件明細書の発明の詳細な説明中、実施例について「必ずしも1本の材料を屈曲して形成する必要はなく、製造又は輸送上の都合で複数の素管を連結して全体として略四辺形に構成してもよい」(甲第2号証2頁3欄28行ないし31行)という記載があることに鑑みると、「略四辺形の管材製枠体」とは、1本の管材を屈曲して、又は数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体を意味するものと認められる。

2  「心金」について

(1)  本件発明の特許請求の範囲1の項には、「上連結金具の上面及び下連結金具の下面に比較的短小の上下一対の心金を突設するものにおいて、前記心金を前記少なくとも2本の管材と同軸上に配された上下一対の主心金と、それらの間に付加的に設けられた少なくとも上下一対の補助心金とで構成し、この主心金と補助心金とに開口部を有する略四辺形の管材製枠体の開口部を嵌め込んで回動自在に係合させ」という記載がある。

上記記載によれば、本件発明の「心金」は、管材と同軸上に配置された主心金と、主心金間に付加的に設けられた補助心金からなり、それぞれ上下連結金具の上下面に上下一対をなして突設され、かつ、略四辺形の管材製枠体の開口部に嵌め込まれて該枠体に回動自在に係合しているものであることが認められる。そして、略四辺形の管材製枠体の開口部に心金を嵌め込んで回動自在に係合させるという以上、心金が略四辺形の管材製枠体の開口部と係合した際に該枠体の回動に支障を生じないような構成であると推認することができる。しかし、特許請求の範囲の記載のみでは、必ずしもその意味が明確とはいえない。

(2)  そこで、本件発明の発明の詳細な説明によって、その意味を検討するに、成立に争いがない甲第2号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明中、実施例による本件発明の説明として、「心金4は上連結金具2の上面及び下連結金具3の下面にそれぞれ同数づつ突設されており上下の2個で一対となっている。そのうちの二対は主心金4a、4bであり前記管材1a、1bと略同軸上に配置されている。この実施例では主心金4a、4bは管材1a、1bの上下を各連結金具2、3の上または下へ突出させ一体的に構成されている。他の二対は補助心金4a、4bであり、管材1a、1bの間に位置し、適宜個数、例えば実施例では二対が付加的に設けられている。」(2頁3欄1行ないし10行)、「管材製枠体5は短い心金に嵌め込んであるだけなので摩擦が少なく操作が円滑に行えるなどの効果がある。」(同頁4欄23行ないし25行)、「枠体5の端部9の長さを心金4の突出長さnより長くすれば、心金が水平部6、7と端部9の間の屈曲部に干渉することがなく、枠体の回動が円滑に行い得る。」(同欄31行ないし34行)と記載されていることが認められる。

上記記載によれば、本件発明の実施例において、「心金4の突出長さ」が「枠体5の端部の長さ」に比べて短くされた構成が示されており、また、心金が前記屈曲部に干渉することなく枠体の回動が円滑に行い得るという効果を奏するというのである。

(3)  以上を総合すれば、本件発明では、心金の突出長さよりも、1本の管材を屈曲して、又は数本の管材を組合せて構成した略四辺形の管材製枠体の端部の長さの方を長くすることで、心金が管材製枠体の水平部と端部の間の屈曲部との間で干渉を生じさせることを回避し、それによって枠体の回動を円滑に行い得るようにした構成を採用しており、本件発明の特許請求の範囲1の項にいう「比較的短小」とは、心金の突出長さが枠体の端部の長さに比較して短いことを意味するものと解するのが相当である。なお、このように解さないと、特許請求の範囲に、特に「比較的短小」という構成を採用したことを理解することができないし、また、本件明細書の全記載を矛盾なく合理的に理解することもできないのである。

3(1)  成立に争いがない甲第3号証によれば、原々明細書には、従来の折畳みふとん干し具として、「従来の折りたたみ式のふとん干し具は第1図のように天パイプ(1)と地パイプ(2)の両端を直角に曲げ柱パイプ(3)と副柱パイプ(4)を各々のパイプの内径に嵌合し、曲げRで停止させて一枚の四辺形を構成し、これを複数個作って柱部を蝶番とする折りたたみ式のふとん干し具が形成され」(2頁2行ないし8行)という記載があり、また、上記の従来の折畳みふとん干し具を示す原々図面第1図には、本件発明の上連結金具に相当するものの上面、下連結金具に相当するものの下面から前記柱パイプの一部及び柱パイプ間において短い柱パイプ状のもの(明細書記載の考案のノッチに相当する部分であるので、以下「ノッチ」という。)が上下一対をなして突出し、天パイプ及び地パイプに嵌合し、ノッチが天パイプ及び地パイプの曲げR部で停止した構成が示されていることが認められるが(別紙図面参照)、上記記載によれば、原々明細書及び原々図面に記載された従来の折畳みみふとん干し具は、ノッチを、天パイプ、地パイプの直角に曲げた両端に曲げRで停止させて数本の管材を組み合せて構成した略四辺形の管材製枠体を形成し、このように形成した複数の枠体を互いに開閉自在に連結したものであって、ノッチと天パイプ及び地パイプとの干渉は避けられず、前記2認定の本件発明のような突出長さが枠体の端部の長さに比較して短い構成をとる心金とは異なることは明らかである。

その他原々明細書にも原々図面にも、上記従来の折畳みふとん干し具以外に、数本の管材を組み合せて構成した略四辺形の管材製枠体の記載はなく、かつ、従来の折畳みふとん干し具のノッチとして、前記のとおり、天パイプ及び地パイプに嵌合し、天パイプ及び地パイプの曲げR部で停止した構成以外のものの記載もない。

そうすると、原々明細書及び原々図面には、原々出願の考案としては、本件発明の「略四辺形の管材製枠体」のうち数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体に、突出長さが枠体の端部の長さに比較して短い心金を適用した構成の折畳みふとん干し具の記載はないものといわざるを得ない。

(2)  成立に争いがない甲第5号証によれば、原出願の明細書中には、数本の管材を組み合せて構成した略四辺形の管材枠体に、突出長さが枠体の端部の長さに比較して短い心金を適用した折畳みふとん干し具が記載されていることが認められるが、前記認定判断に照らせば、これは原出願において初めて付加されたものであって、原出願に係る発明は原々出願に係る考案と同一性を有しているとはいえないから、原々出願から原出願への変更は出願の変更の要件を欠くものというべきである。したがって、本件出願の日は、原々出願の出願日まで遡及せず、原出願の出願日である昭和54年3月2日とみるべきであるから、審決の本件出願の出願日についての認定は誤っている。

(3)  被告らは、原々明細書及び原々図面の記載に基づき、当業者であれば、ふとん干し具に使用される管の直径や長さ、あるいは回転部分のクリアランスなどを考慮して、原々出願の明細書に、心金が比較的短小の上下一対のふとん干し具が記載されていることが容易に理解されるから、本件発明の出願日は当然に原々出願の出願日に遡及する旨主張する。

しかし、分割出願として出願日の遡及が認められるためには、原々明細書又は原々図面に、原々出願の考案として、新たに分割された発明の要旨とする技術的事項のすべてが記載されていなければならないと解されるところ、前掲甲第5号証によれば、原々明細書及び原々図面中に、原々出願に係る考案の折畳みふとん干し具として、本件発明の心金に相当するノッチ、つまり、枠体の端部の長さよりも突出長さを短くしたノッチが記載されているが、そのノッチが嵌合する管材製枠体は1本のパイプ材を4つのコーナーで曲げたC型フレームであって、このようなC型フレームによって構成されていることが認められる。そして、このような折畳みふとん干し具は、本件発明の「略四辺形の管材製枠体」のうち数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体に、突出長さが枠体の端部の長さに比較して短い心金を適用した構成の折畳みふとん干し具とは異なるものであるから、原々明細書又は原々図面には、原々出願の考案として、新たに分割された発明の要旨とする技術的事項が記載されているということはできず、したがって、被告らの上記主張は、採用することができない。

4  前記1、2認定の事実によれば、本件発明は、1本の管材を屈曲して、又は数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体に、突出長さが枠体の端部の長さに比較して短い心金を適用した折畳みふとん干し具であるところ、その折畳みふとん干し具のうち、1本の管材を屈曲して構成した略四辺形の管材製枠体に、突出長さが枠体の端部の長さに比較して短い心金を適用したものは、上記出願日前に公開された実願昭51-62161号(実開昭52-152832号)のマイクロフィルムに記載された発明、すなわち、原々出願に係る考案と同一であると認められ、特許法29条1項3号、123条1項1号の規定により無効であるといわなければならない。

第3  以上によれば、本件出願の出願日を原々出願の出願日まで遡及させたうえ、引用例1ないし3にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもではないとした審決の認定判断は誤りであって、同認定判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。

よって、審決を取り消すこととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年8月27日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

【1】手続の経緯

本件特許第1287636号発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和60年10月31日に設定の登録がなされたものである。

本件発明に係る特許出願の経緯及びその手続き上の主な経緯は、次のとおりと認められる。

1 昭和51年5月14日、原々出願

昭和51年実用新案登録願第62161号

2 昭和54年3月2日、原々出願を出願変更(原出願)

昭和54年特許願第24735号

3 同日、原出願を分割出願(本件発明に係る特許出願)

昭和54年特許願24736号

3-1 昭和55年9月25日、手続補正(第1補正)

3-2 昭和56年2月6日、手続補正(第2補正)

3-3 昭和59年10月3日、手続補正(第3補正)

3-4 昭和60年2月9日、出願公告特公昭60-5320号

3-5 昭和60年10月31日、本件発明の設定登録

【2】本件発明の要旨

本件発明の要旨は、その明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲1に記載された次のとおりのものと認める。

「少なくとも2本の管材を上連結金具と下連結金具とにより上下において互いに連結して主柱を構成し、上連結金具の上面及び下連結金具の下面に比較的短小の上下一対の心金を突設するものにおいて、前記心金を前記少なくとも2本の管材と同軸上に配された上下一対の主心金と、それらの間に付加的に設けられた少なくとも上下一対の補助心金とで構成し、この主心金と補助心金とに開口部を有する略四辺形の管材製枠体の開口部を嵌め込んで回動自在に係合させてなる折畳みふとん干し具。」

【3】請求人の主張の概要

【3-1】無効理由1

本件発明の明細書の特許請求の範囲1には、発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないので、その明細書は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、本件発明の特許は、同法123条第1項第3号の規定により無効とされるべきである。

【3-2】無効理由2

本件発明に係る特許出願は、原々出願を適法に出願変更したものでない原出願を分割して新たな特許出願としたものであるから、原々出願の時にしたものとはみなされない。(要するに、本件発明に係る特許出願は、特許法第46条第5項、同法第44条第2項本文による出願日の遡及の適用はない。)

よって、本件発明は、実願昭51-62161号(原々出願)(実開昭52-152832号)のマイクロフィルム(甲第6、9、10号証)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明の特許は、同法123条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。

【3-3】無効理由3

本件発明に係る特許出願は、原々出願を適法に出願変更したものでない原出願を分割して新たな特許出願としたものであるから、原々出願の時にしたものとはみなされない。(要するに、特許法第46条第5項、同法第44条第2項本文による出願日の遡及の適用はない。)

よって、本件発明は、実願昭51-62161号(原々出願)(実開昭52-152832号)のマイクロフィルム(甲第6、9、10号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、本件発明の特許は、同法123条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。

【3-4】無効理由4

仮に、本件発明に係る特許出願の出願日が遡及する場合は、本件発明は、甲第2、3、7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであり、本件発明の特許は、同法123条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。

【4】証拠方法

請求人が提出した証拠方法は、次のとおりのものと認められる。

甲1号証 実開昭50-60233号公報

甲2号証 実開昭51-11230号公報

甲3号証 実開昭51-57835号公報(甲3号証の2の公開公報)

甲3号証の2 実願昭49-132246号(実開昭51-57835号)のマイクロフィルム

甲6号証 実願昭51-62161号(原々出願)の明細書及び図面

甲7号証 実開昭48-76564号公報(甲7号証の2の公開公報)

甲7号証の2 実願昭46-121975号(実開昭48-76564号)のマイクロフィルム

甲9号証 実願昭51-62161号(原々出願)の願書

甲10号証 実開昭52-152832号公報(原々出願の公開公報)

甲11号証 特願昭54-24735号(原出願の明細書及び図面)

甲12号証 東京高等裁判所昭和60年3月27日判決 東京高等昭和57年(行ケ)第273号

無体財産権民事・行政裁判例集 第17巻第1号104頁

【5】当審の判断

【5-1】無効理由1について

本件発明の明細書には、

「よって、枠体5の数に比して主柱1を構成する管材1a、1bの数を少なくできるので、ふとん干し具を軽量化でき、比較的非力な家庭の主婦などでも容易に庭へ持ち出したり、物置へ格納することができる。

また、外観上もシンプルになり、美観が向上する。しかも、管材1a、1bは連結金具2、3で連結され補強されているので、管材1a、1bが少数であっても何等強度が損われることがない。また、管材製枠体5は短い心金に嵌め込んであるだけなので摩擦が少なく操作が円滑に行えるなどの効果がある。」

(第1、2補正;本件発明の公告公報4欄14~25行。なお、以下、本件発明の引用個所は、同公告公報で示す。)

と実施例における効果が記載されている。

かかる記載及びその明細書中に記載の目的(公告公報2欄11~14行)からみて、本件発明の明細書には、管材製枠体の数よりも主柱を構成する管材の数を少なくすることができ、その構成を簡略化、軽量化することができ、折畳みあるいは開拡の操作を円滑に行うことができる、という効果が記載されているものと認められる。

そして、このような効果は、本件発明の要旨である、「少なくとも2本の管材を上連結金具と下連結金具とにより上下において互いに連結して主柱を構成し」という構成及び「心金を前記少なくとも2本の管材と同軸上に配された上下一対の主心金と、それらの間に付加的に設けられた少なくとも上下一対の補助心金とで構成し、この主心金と補助心金とに開口部を有する略四辺形の管材製枠体の開口部を嵌め込んで回動自在に係合させてなる」という構成の相俟った構成によって達成されるものと認められる。

そうしてみると、本件発明の明細書の特許請求の範囲1には、発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないとはいえない。

なお、本件発明の明細書の発明の詳細な説明中には、本件発明の構成に対応する効果が記載されていないとはいえない。

したがって、請求人が主張する無効理由1によって本件発明の特許を無効とすることはできない。

【5-2】無効理由2について

(1)本件発明に係る特許出願の出願日について以下検討する。

(イ)請求人は、本件発明に係る特許出願が、原々出願(甲第6、9号証)を適法に出願変更したものを分割出願したものに該当しない理由として、本件発明には、「数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体」(以下、「構成甲」という。)が含まれるが、原々出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第6号証;以下「原々明細書」という。)には、「構成甲」を包含する考案が開示されていない旨主張する(平成6年3月8日付口頭審理陳述要領書、平成6年5月13日付審判事件弁駁書)ので、まず、本件発明に係る特許出願が適法に変更出願され、また、適法に分割出願されたかについて検討する。

本件発明の明細書の特許請求の範囲6(実施態様項)には、「第1項の記載において、前記略四辺形の管材製枠体は、数本の管材を組み合わせて構成した折畳みふとん干し具。」と記載されているから、本件発明の管材製枠体には、「数本の管材を組み合わせて構成した略四辺形の管材製枠体」(「構成甲」という。)も包含されるものと認められる。

一方、原々明細書(甲第6号証)には、

「従来の折たたみ式のふとん干し具は第1図のように天パイプ1と地パイプ2の両端を直角に曲げ柱パイプ3と副柱パイプ4を各々のパイプの内径に嵌合し、曲げRで停止させて一枚の四辺形を構成し、これを複数個作って柱部を蝶番とする折りたたみ式のふとん干し具が形成されており、持ち運ぶとき天パイプ1を持ち上げると曲げR部の摩擦で形成されている構造がバラバラに分解してしまうことがあった。また雨天に外に放置したりすると雨水は柱パイプ3及び副柱パイプ4をつたって地パイプ2の中に流入して中で茶色の銹水となり、持ち運び時に傾斜したとき継ぎ目から噴き出して衣服やふとんを汚ごすことがあった。」(2頁2~15行)

「本考案はこの事柄に鑑みてなした改良で、第2図のように、1本のパイプ材を4つのコーナ5、6、7、8で曲げたC型フレーム9のC字状の間口10の寸法lを、上下に複数個のノッチと段置を有する柱11の段置間隔mより小さく設けておき、C型フレーム9の間口10をノッチの寸法をnとするとm+n以上に押し開いてノッチに嵌合させる。C型フレーム9は一般に防銹亜鉛処理を表面に施した外径20m/m程度の鋼パイプ材を用いるのでm-lの寸法は200m/m位にするのが嵌入したあとの締め力による蝶番作用が円滑である。」(2頁16行~3頁7行)

が記載され、第1図には、天パイプ1と地パイプ2の両端を直角に曲げ、副柱パイプ3とで形成された開口部を有するパイプからなる枠体が図示されているものと認められる。

これら記載から、原々明細書(甲6号証)には、ふとん干し具の枠体として、「1本のパイプ材を折曲げて形成されたC型フレーム(略四辺形の管材製枠体)」のほかに、「数本のパイプ(管材)を組み合わせて形成された開口部を有するパイプからなる枠体(管材製枠体)」即ち「構成甲」が記載されているものと認められる。

また、原出願(甲第11号証)の願書に最初に添付した明細書(以下、「原明細書」という。)の特許請求の範囲4には、「第1項の記載において、前記略C形の管材製枠体は数本の管材を組合わせて構成した折畳みふとん干し具。」(2頁2~4行)が記載されているから、原明細書には、「構成甲」が記載されているものと認められる。

ところで、変更出願の要件として、変更出願に係る発明の要旨とする事項が、変更前のもとの出願の当初明細書又は図面に記載されていることが必要である。

また、分割出願の要件として、分割出願に係る発明は、分割前の出願の当初明細書又は図面に開示されていることが必要であり、分割出願について「特許出願人は、願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」(特許法44条第1項)と規定されている。

更に、公告決定前の補正は、明細書の要旨を変更しない限り、自由であり(特許法53条、実用新案法13条)、手続きをした者は、補正できる期間内に限り、その補正ができる(特許法17条1項、同法17条の2)。

以上の要件などを考慮すると、本件発明に係る特許出願のように、実用薪案登録出願(原々出願)を出願変更して特許出願(原出願)とし、更に、原出願を分割出願して新たな特許出願(分割出願)とした場合、新たな特許出願(分割出願)に係る発明の要旨とする構成が、原々明細書に記載された事項の範囲内であり、また、原明細書に記載された事項の範囲内である場合は、新たな特許出願は、適法に変更出願がなされ、また、適法に分割出願がなされたものといえる。

そして、このような場合は、新たな特許出願は、原々出願の時になされたものとみなされ、その出願日は遡及する(特許法46条5項、同法44条2項)。

そこで、本件発明の要旨の一部である「構成甲」が、原々明細書(甲6号証)に記載されていた事項の範囲内のものであるか、原明細書(甲11号証)に記載されていた事項の範囲内のものであるかについて検討すると、前述したとおり、「構成甲」は、原々明細書(甲6号証)にも、原明細書(甲第11号証)にも記載されているから、いずれの明細書にも記載された事項の範囲内であるといえる。

(ロ)また、請求人は、原々明細書中には、本件発明の「心金」が記載されていない、「管材1a、1bの端部を~心金として用いること」は記載されていない、「構成を簡略化して軽量化を図る」という目的が記載されていない旨主張(平成5年3月24日付口頭審理陳述要領書16頁11行~21頁8行)するが、これらは、原々明細書の記載からみて当業者にとって、自明な事項として読み取れることである。

(ハ)以上のとおりであるから、本件発明に係る特許出願は、変更出願及び分割出願がそれぞれ適法になされたものであり、原々出願の出願日である昭和51年5月14日にされたものとみなされる。(即ち、出願日は遡及する。)

(ニ)なお、請求人は、原々明細書に開示された考案は、従来の「数本の管材を組み合わせて構成した管材製枠体」(以下、「構成甲」という。)を改良することを目的とした考案であって、その明細書中に記載された「構成甲」は、効果劣悪な失敗例(第1図に比較例)として示されているものであるから、「構成甲」を包含した考案でなく、これを包含した本件発明に係る特許出願は適法な変更出願を経た分割出願でない旨主張する(平成6年3月8日付口頭審理陳述要領書、平成6年5月13日付審判事件弁駁書)ので、以下検討する。

原々明細書には、従来技術として、「構成甲」からなる折畳み式ふとん干し具が記載され、「構成甲」には欠点がある(2頁2~15行)旨記載されていることが認められる。

しかし、この欠点としている「構成甲」は、本件発明者が知得していた従来技術を原々明細書に記載したものであり、この従来技術が明細書に記載された考案でないということできない。

なぜならば、「構成甲」は、或る観点からすれば、持ち運び時に分解し易い難点を有するかもしれないが、他の観点からすれば、収納や輸送が簡単であるという利点を有することも明らかであるからである。

ところで、出願の明細書中に従来技術として記載されたものは、出願人(発明者又は考案者をも含めて。)が出願時に知得している関連技術に関するものであり、そこに記載された技術の評価は、特許又は実用新案登録請求の範囲に記載された発明又は考案との相対的関係で、出願人(発明者又は考案者)が主観的認識に基いて明細書中に記載したにすぎず、その従来技術として記載されたもの自体が、発明又は考案の対称になり得ないという根拠はない。

ここで、この発明又は考案が特許法第29条等の規定に照らして特許性又は考案性があるか否か、或いは独立して特許又は実用新案登録を受け得るか否かということは別問題である。

ということは、出願について、公告決定前の補正は、明細書の要旨を変更しない限り、自由であり(特許法53条、実用新案法13条)、手続きをした者は、補正できる期間内に限り、その補正ができる(特許法17条1項、同法17条の2)ということを考慮すれば、出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内であれば、従来技術あるいは比較例であっても、その明細書の記載を補正することにより、その出願に係る発明又は考案とすることができる、ということであり、このようなことは、変更出願、分割出願の場合についてもいえることである。

そうすると、本件発明の場合、「構成甲」は、原々明細書に従来技術としてではあるものの記載されており、また原明細書にも記載されているから、この「構成甲」を包含する本件発明に係る特許出願が適法な変更出願を経た分割出願でないという理由はなく、甲第12号証を参照しても請求人の主張は採用できない。

(なお、出願に係る発明の作用効果を明らかにするために、その明細書中に比較例として記載されたものであっても、明細書に記載された発明であるとした判決については、「知的財産権関係民事・行政裁判例集 第23巻1号(平成3年)」1頁以降 東京高等昭和63年(行ケ)第86号 平成3年1月21日 判決参照。)

(2)以上説示したとおり、本件発明に係る特許出願は、原々出願の出願日である昭和51年5月14日に出願したものとみなされるから、甲6、9、10号証{実願昭51-62161号(実開昭52-152832号)のマイクロフィルム}は本件発明に係る特許出願前に頒布された刊行物ではない。

したがって、甲6、9、10号証が本件発明に係る特許出願前に頒布された刊行物であることを前提とした請求人の主張する無効理由2は、その前提となる根拠を欠くものであるから、請求人が主張する無効理由2によって本件発明の特許を無効とすることはできない。

【5-3】無効理由3について

甲6、9、10号証{実願昭51-62161号(実開昭52-152832号)のマイクロフィルム}は本件発明に係る特許出願前に頒布された刊行物でないことは、前項で詳述したとおりである。

したがって、甲6、9、10号証が、本件発明に係る特許出願前に頒布された刊行物であることを前提とした請求人の主張する無効理由3は、その前提となる根拠を欠くものであるから、請求人が主張する無効理由3によって本件発明の特許を無効とすることはできない。

【5-4】無効理由4について

請求人は、甲2号証(実開昭51-11230号公報)、甲3号証(実開昭51-57835号公報)、甲3号証の2{実願昭49-132246号(実開昭51-57835号)のマイクロフィルム}、甲7号証(実開昭48-76564号公報)、及び甲7号証の2{実願昭46-121975号(実開昭48-76564号)のマイクロフィルム}を提出して、本件発明は甲7号証、甲2号証、甲3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張しているが、ここで、その主張内容からみて、甲3号証は甲3号証の2、甲7号証は甲7号証の2の趣旨であると解される。

甲7号証の2(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、「ふとんを2つ折りした長さよりも大きい幾つかの直立管1の上、下適所を前後両面から承金2、2’および3、3’にて双に挟み中央の直立管のみは固定し他は扇形に開くように鋲着して要めaを構成し、該要めaの各直立管の基端は、ふとんの幅よりやや大きく両端部近くを夫々湾曲b、b’して弾発性を帯びしめ、しかも両端を上向きに屈曲した接地管4の後端に夫々緩挿し、且つ該接地管4の上向き前端には、前記要めaの各直立管6を夫々緩挿し、かくした上記要めaにおける直立管1の上端と前面直立管6の各上端とは、これ又前記接地管4の長さと等しくしかも両端を下向きに屈曲した掛着管5の下向き両端に夫々緩挿して成るか又は直立管1および6と接着管5とを夫々1本のものとして成るふとん干器。」(実用新案登録請求の範囲)及び「又使用が終ってこれを片付けようとせば前記のような組立操作の逆の操作を為せば要めa丈はその儘で他は全部ばらばらの状態に解体することが出来るから、その取扱が極めて簡単手軽である。」(引用例1の明細書2頁9~12行)が記載されているものと認められる。

これら記載から、引用例1に記載のふとん干器(以下、「引用発明」という。)は、1本の中央直立管1の上下に承金を固定し、その承金を鋲着して他の2本の直立管1、1(脇の直立管)を回動自在に挟み、承金から突出した中央直立管1の基端及び同じく突出した脇の直立管1、1の基端に、接地管4と掛着管5と直立管6からなる枠体(管材製枠体)をそれぞれ挿着した構成からなるもので、このふとん干器は、承金を固定した中央直立管に挿着した枠体(管材製枠体)は回動せず、脇の直立管に挿着した枠体(管材製枠体)だけが脇の直立管と一体となって回動するものと認められる。

そこで、本件発明と引用発明とを対比すると、本件発明の明細書の特許請求の範囲7(実施態様項)には、「第1項の記載において、主心金は主柱を構成する管材の端部を上連結金具より上方と、下連結金具より下方とに突出させた折畳みふとん干し具。」と記載されているから、本件発明の主柱を構成している管材の端部(心金)が上下連結金具の上下面に突出している点は、引用発明の中央直立管の基端が承金(本件発明の「連結金具」に相当する。)から突出している点と共通する。

しかし、引用発明の中央直立管の基端も、脇の直立管の基端も、枠体(管材製枠体)を回動させるための心となるものでなく、本件発明の「心金」に相当するものでない。

以上のことを考慮して、再び本件発明と引用発明との対比に戻ると、引用発明は、本件発明の「少なくとも2本の管材を上連結金具と下連結金具とにより上下において互いに連結して主柱を構成し、上連結金具の上面及び下連結金具の下面に比較的短小の上下一対の心金を突設し、前記心金を主心金とその主心金の間に付加的に設けられた少なくとも上下一対の補助心金とで構成し、この主心金と補助心金とに管材製枠体の開口部を嵌め込んで回動自在に係合させる」という「基本構成」を備えていない。

そこで、本件発明が備えている「基本構成」が甲2号証(以下、「引用例2」という。)乃至甲3号証の2(以下、「引用例3」という。)に記載のものから容易になしえるかについて検討する。

引用例2には、支柱1に突出されたオネジ2、3に、上部腕金4、5、6と下部腕金9、10、11を順次作動自在に挿入し、締め付け、且つ補助支柱17、18、19を各上部腕金下部腕金にボルトにて締付け1体に作動自在とならしめ、この補助支柱17、18、19の下方と13、14、15を脚とした物干器具が記載されているが、本件発明の「基本構成」が容易になしえることを示唆するところはない。

また、引用例3には、角型枠1の片側軸2の上下の2個所に、枢支受具3、3’を附設し、これにコ字型枠4、4’をはめ込んで開閉自在に取付けてなるY字型フトン掛が記載され、ここで、枢支受具3、3’は本件発明の補助心金に相当するが、かかる記載から、本件発明のように心金と補助心金とを連結金具に設けるという構成からなる「基本構成」が容易に想到しえるとする根拠はない。

なお、「基本構成」については、甲1号証にも示唆されていない。

そして、本件発明は、「基本構成」を採択することにより、その明細書に記載の効果、即ち、管材製枠体の数よりも主柱を構成する管材の数を少なくすることができ、その構造を簡略化、軽量化することができ、折畳みあるいは開拡の操作を円滑に行うことができる、という効果を奏するものと認められる。

したがって、本件発明は、引用例1、引用例2、引用例3に夫々記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできず、結局、請求人が主張する理由によっては本件発明の特許を無効とすることはできない。

【6】むすび

以上説示したとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。

別紙図面

1…天パイプ 2…地パイプ 3…柱パイプ 4…副住パイプ

5、6、7、8…コーナー 9…C型フレーム 10…間口 11…柱

12…ノッチ 13…外周 14…上端面 15…ゴムブーツ

<省略>

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